【医療・ヘルスケア】息止め不要で心臓をクッキリ撮影!キヤノンメディカルの「次世代MRI」
今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「発明賞」を受賞した、キヤノンメディカルシステムズ株式会社(出願時は東芝メディカルシステムズ株式会社)による「磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置(特許第6073627号)」です。
病院のMRI検査で「大きく息を吸って、止めてください」と言われ、苦しい思いをした経験はありませんか? 特に心臓のように絶えず動いている臓器をブレずに撮影するためには、患者さんが息を止めている十数秒の間に素早くスキャンを終わらせる必要がありました。
この特許は、あえて「スカスカに間引いたデータ」だけで超高速撮影を行い、足りない情報を後から「高度な数学的計算」で完璧に補完することで、**息止めを全くしなくてもリアルタイムに心臓の動画(多断面)を撮影できる**ようにした、まさに魔法のような画像処理技術です。
【課題】心臓の撮影には「息止め」という高いハードルがあった
MRI(磁気共鳴イメージング)は被曝の心配がない優れた検査ですが、CTなどと比べて「撮影に時間がかかる」という弱点があります。
そのため、心臓の検査をする際は、呼吸による胸の動き(ブレ)をなくすために、患者さんに何度も「息止め」をお願いする必要がありました。しかし、心疾患を疑われて検査に来る高齢の患者さんなどにとって、長時間の息止めは肉体的にも精神的にも非常に過酷であり、検査が失敗してしまうことも少なくありませんでした。
【解決策】データを間引いて高速化し、「感度マップ」で隙間を埋める
この課題を解決するため、撮影するデータ量をあえて減らす(間引きサンプリングする)ことで撮影時間を劇的に短縮し、隙間のデータは周辺情報から計算して予測する「k-t法」などのパラレルイメージング技術が研究されてきました。
しかし、心臓のように激しく動く臓器の隙間データを正確に予測するためには、患者さんの体内のコイル感度を示す「感度マップ」を正確に作らなければならず、ここに大きな技術的な壁がありました。
1. 動く心臓と動かない背景を「マスク処理」で分離
本特許の最大の発明は、この「感度マップ」を動的に、かつ超高精度に導き出すアルゴリズムにあります。
キヤノンメディカルシステムズの発明者は、間引いて撮影した粗いデータに「時間方向のローパスフィルタ(LPF)」などをかけることで、激しく動く心臓の部分(高域成分)と、動かない背景部分(低域成分)とを数学的に分離する「マスク」を作成する手法を開発しました。
2. 欠落したデータを完璧に予測・復元
このマスクを用いて導き出された高精度な「時空間感度マップ」を使うことで、間引かれた白丸の部分(欠落データ)に本来どんな信号が入るべきだったかを、逆算して完璧に復元(unfolding)することができます。
MRIの磁石やセンサー(ハードウェア)をこれ以上物理的に高速化するのは至難の業です。本特許は、「少ないデータから元の形を数学的に推論する」という、ITや信号処理(ソフトウェア)の力によってハードウェアの限界を突破した好例と言えます。
【効果】患者さんに優しく、医師に的確な情報を
この画像処理技術がMRI装置に実装されたことで、医療現場に革命が起きました。
- 息止めが一切不要に: 患者さんは自然に呼吸をしたまま寝ているだけで、苦痛なく心臓のMRI検査を受けられるようになりました。
- 多断面のリアルタイム動画: 心臓の動きを複数の断面からリアルタイムの動画としてクリアに観察できるようになり、医師の的確な診断を強力にサポートします。
日本の医療機器メーカーの高度な数学的アプローチが、世界中の患者さんの負担を減らしている素晴らしい発明です。
技術情報まとめ
| 発明の名称 | 磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第6073627号 |
| 特許権者 | キヤノンメディカルシステムズ株式会社 (特許出願時:東芝メディカルシステムズ株式会社) |
| 発明者 | 竹島 秀則 |
| 出願日 | 平成24年10月1日 (2012.10.01) |
| 登録日 | 平成29年1月13日 (2017.01.13) |
| 受賞歴 | 令和7年度 全国発明表彰 発明賞 |
| 関連リンク |
Google Patentsで全文を読む J-PlatPatで公報・経過情報を確認 |