【医療・ヘルスケア】たった1色で全ての歯に馴染む!トクヤマデンタルの「カメレオン」歯科材料
今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「特許庁長官賞」を受賞した、株式会社トクヤマデンタルによる「硬化性組成物及び歯科用充填修復材料(特許第6250245号)」です。
歯医者さんで虫歯を削った後、白い粘土のようなものを詰めて光で固める治療を受けたことはありませんか? あの材料は「コンポジットレジン」と呼ばれます。
従来は、患者さんごとの微妙な歯の色に合わせるため、何十種類もの色のレジンを用意する必要がありました。しかしこの特許技術は、「たった1つのシリンジ(色)で、どんな患者の歯の色にもカメレオンのように同化する」という魔法のような製品(オムニクロマ)を生み出しました。その驚きのカラクリを解説します。
【課題】患者ごとの「歯の色合わせ」は至難の業
人間の歯の色は、「白」と一口に言っても、黄色がかった白、赤みがかった白、明るい白、暗い白など、千差万別です。
従来のコンポジットレジンは、赤や黄色の「顔料・染料(色素)」を混ぜて色を作っていました。そのため、歯科医師はカラーサンプル(シェードガイド)を患者さんの歯に当てて、何十種類もあるレジンの在庫の中から最も近い色を選び出すという、熟練の技術と手間(シェードテイク)が必要でした。
また、歯科医院側にとっても、たまにしか使わない特殊な色のレジンまで大量に在庫として抱えなければならず、使用期限切れによる廃棄ロスも大きな課題となっていました。
【解決策】「色素」を使わず「構造色」で色を生み出す
この課題に対し、トクヤマデンタルは「色を塗る」のではなく、シャボン玉やモルフォ蝶のように「光の反射(干渉)で色を生み出す=構造色」という全く新しいアプローチを採用しました。
ナノサイズの「揃った球」が奇跡を起こす
本特許の核心は、レジンの中に混ぜ込む「フィラー(ガラスなどの微粒子)」の形と大きさにあります。
表1にあるように、平均粒子径が「260nm(ナノメートル)付近」で、かつ大きさが均一に揃った「真球状」のフィラーを特殊なモノマー(樹脂成分)と組み合わせました。 このサイズの球状粒子に光が当たると、人間の歯のベースカラーである「赤から黄色」の光だけが強く反射(干渉)される現象(構造色)が起こります。
つまり、このレジン自体には色がついていないのに、周囲の歯を透過してきた光と、レジンが生み出す赤~黄色の構造色が混ざり合うことで、まるで元からそこにあった歯のように、周囲の色と完全に一体化して見えるのです。
「260nmの球を入れればいい」と言うのは簡単ですが、それを実現するのは極めて高度な化学技術が必要です。
トクヤマデンタルは、独自の「ゾルゲル法」という合成技術を駆使し、ナノサイズのガラス粒子を、まるでイクラのように綺麗な真球で、かつ同じ大きさに揃えて大量生産する技術を確立しました。粒子の大きさが少しでもバラつくと、光の干渉が乱れて白濁してしまい、カメレオン効果は発揮されません。この緻密な材料制御こそが、特許庁長官賞に選ばれた最大の理由です。
【効果】歯科医療の常識を変えるイノベーション
この特許技術を用いた製品(オムニクロマ)は、世界の歯科医療に以下の革命をもたらしました。
- 究極の省力化: 歯科医師は「どの色を使おうか」と迷う必要がなくなり、治療時間が大幅に短縮されます。
- 在庫・廃棄コストの削減: 何十色も必要だった在庫が「たった1本」で済むため、医院の経営効率が劇的に向上し、廃棄ロス(環境負荷)も削減されます。
- 経年変化にも対応: ホワイトニングや加齢によって将来的に歯の色が変わっても、レジンがその時の周囲の歯の色に自動で同化し続けます。
特許情報まとめ
| 発明の名称 | 硬化性組成物及び歯科用充填修復材料 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第6250245号 |
| 特許権者 | 株式会社トクヤマデンタル |
| 発明者 | 秋積 宏伸、鳥谷部 慈 |
| 出願日 | 平成28年10月21日 (2016.10.21) ※国際出願日 |
| 登録日 | 平成29年12月1日 (2017.12.01) |
| 受賞歴 | 令和7年度 全国発明表彰 特許庁長官賞 ※併せて「発明実施功績賞」を受賞 |
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