【半導体・IT】スマホの画面を極限まで美しく!日産化学の「光で揃える」液晶配向膜技術
今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「発明協会会長賞」を受賞した、日産化学株式会社による「液晶配向膜の製造方法、液晶配向膜、及び液晶表示素子(特許第6056759号)」です。
私たちが毎日見ているスマートフォンやテレビの「液晶ディスプレイ」。その画面を綺麗に映し出すためには、内部の液晶分子を同じ方向にビシッと「整列(配向)」させる必要があります。
近年主流となった「光を当てて整列させる」最先端の製造プロセスにおいて、長年の課題だった「配向の乱れ」や「画面のムラ」を、絶妙な化学的アプローチ(特定の溶媒による洗浄)で劇的に改善した、ディスプレイ産業を裏から支えるコア技術を解説します。
【課題】「光配向技術」が抱える、見えないゴミの問題
液晶分子を整列させる「配向膜」の製造方法は、大きく分けて2つあります。一つは布で膜の表面を一方向にこする「ラビング法」。もう一つは、特定の光(偏光紫外線)を当てることで膜の分子構造を変化させる「光配向法」です。
光配向法は、こすらないため静電気やキズが発生せず、高精細なディスプレイを作るのに最適です。しかし、大きな弱点がありました。
光を当てて配向膜(ポリイミドなどの高分子)の結合を切断・再配列させる際、切断された「分子の破片(分解物)」が膜の中に残ってしまいます。この破片が邪魔をして、「異方性(液晶分子を整列させる力の強さ)」が十分に上がらなかったり、長期間使っていると画面にムラ(焼き付きなど)が発生したりするという深刻な課題がありました。
【解決策】光を当てた後に「特定の溶媒」で洗い流す!
「不要な破片が残るなら、洗ってしまえばいい」と考えるのは自然なことです。しかし、配向膜自体を溶かしてしまっては元も子もありません。
本特許の発明者たちは膨大な実験を繰り返し、「光を当てて発生した分解物(ゴミ)だけを綺麗に溶かし出し、ベースとなる配向膜にはダメージを与えない、絶妙な溶媒(洗い液)」を発見しました。
「良溶媒」と「貧溶媒」のパラメーターで定義
単に「この液が良い」というだけでなく、本特許ではその溶媒の条件を化学的に明確に定義しています。具体的には、光反応させる前のポリマー(配向膜の原料)に対する溶解性を示すパラメータを用いて、「溶解性が10g未満となる溶媒」という条件を突き止めました。
表1を見ると、条件を満たす特定の溶媒(PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテルなど)を使った「実施例1~23」では、異方性の大きさ(数値が高いほど液晶が綺麗に揃う)が劇的に向上し、かつ膜のムラも無くなっていることがわかります。
一方、条件に合わない溶媒(例えば比較例4のGBLや比較例5のNMP)で洗うと、膜自体が「全て溶解」してしまい、水やイソプロパノール(IPA)だけ(比較例2等)ではゴミが十分に落ちず、異方性が上がらない(=配向力が弱い)結果となっています。
化学メーカーの特許といえば「新しい物質を作った」というものが多いですが、この特許は「既存の材料の『洗い方(製造プロセス)』を変えるだけで、製品の性能を飛躍的に高めた」点が秀逸です。
ディスプレイメーカーは、既存の生産ラインに「特定の溶媒で洗う」という工程を1つ追加するだけで、これまでにない高画質でムラのない液晶ディスプレイを安定して量産できるようになったのです。
【効果】超高精細・広視野角ディスプレイの普及を牽引
この「特定の溶媒による処理工程」を組み込んだ光配向技術により、以下の効果がもたらされました。
- 画質の飛躍的な向上: 液晶分子が極めて正確に整列するため、コントラストが高く、斜めから見ても綺麗な(広視野角の)ディスプレイが実現しました。
- 信頼性(寿命)の向上: 膜内の不純物が除去されたことで、長時間同じ画面を表示し続けても「焼き付き」が起こりにくくなりました。
- 製造コストの低減: 高度な光配向プロセスにおける不良率(歩留まり)が改善され、スマートフォンや高精細テレビの高品質化と低価格化に貢献しています。
特許情報まとめ
| 発明の名称 | 液晶配向膜の製造方法、液晶配向膜、及び液晶表示素子 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第6056759号 |
| 特許権者 | 日産化学株式会社 |
| 発明者 | 堀 隆夫、作本 直樹 |
| 出願日 | 平成24年9月13日 (2012.09.13) ※国際出願日 |
| 登録日 | 平成28年12月16日 (2016.12.16) |
| 受賞歴 | 令和7年度 全国発明表彰 発明協会会長賞 ※併せて「発明実施功績賞」を受賞 |
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