【医療・バイオ】見えない分子を逃さない!島津製作所の「高感度・質量分析」技術
今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において最高賞にあたる「文部科学大臣賞」を受賞した、株式会社島津製作所による「質量分析装置及びイオン検出装置(特許第6593548号)」です。
質量分析装置とは、物質に電気を帯びさせて(イオン化して)重さを量ることで「何の物質が、どれだけ含まれているか」を突き止める、現代の医療や創薬に欠かせない最強の分析ツールです。
この特許は、空気中に散らばってしまう極小の分子を、目に見えない「電場の壁」を使って漏れなく分析器へ吸い込むという、精密機器メーカーならではの魔法のような装置デザインです。
【課題】分析器の「入り口」で分子が散らばってしまう
質量分析装置では、まず液体サンプルをスプレーのように噴霧して、調べたい分子を「イオン化」します。その後、そのイオンを「真空状態」の分析器の内部へ、細い管の小さな穴を通して吸い込みます。
しかし、ノズルから勢いよく飛び出したイオンは四方八方へ広がってしまいます。特に、質量の大きい(重い)タンパク質などの分子は、ガスの流れに逆らって細管の小さな穴に入り込むのが難しく、大半が穴の周りの壁にぶつかって失われて(ロスして)しまい、測定の感度が上がらないという大きな課題がありました。
【解決策】イオンに「絶妙なカーブ」を描かせる非対称電場
島津製作所は、ノズルから飛び出したイオンをまっすぐ吸い込むのではなく、「反射電極」と「集束電極」と呼ばれる2つの電極を使って、イオンの軌道を空中で曲げながら穴へ誘導する画期的な構造を発明しました。
「非対称」な配置がミソ
最大のポイントは、ノズルの真下から「わざと位置をずらして」反射電極と集束電極を非対称に配置した点です。
この電極に電圧をかけると、空間に目に見えない「電気の坂道(電場)」ができます。ノズルから勢いよく飛び出したイオンは、反射電極から反発力を受け、まるでスキージャンプのコースを滑り降りるようにカーブを描きながら、集束電極の開口部(細管の入り口)に向かってピンポイントで集められていきます。
この「曲げてから吸い込む」構造には、もう一つの強力なメリットがあります。それは「ノイズの除去」です。
サンプル液の中には、イオン化されなかった中性の液滴(ただのゴミ)も混ざっています。これらが細管に入るとノイズになりますが、電気を帯びていないゴミは「電場の壁」の影響を受けないため、カーブできずに真っ直ぐ落下して捨てられます。
つまり、「不要なゴミは落とし、欲しいイオンだけを曲げて取り込む」という、一石二鳥の完璧な空間デザインなのです。
【効果】信号強度が最大で6倍に!創薬を加速する
この新しい電極構造を採用した結果、イオンをロスなく取り込めるようになり、検出される信号強度が従来と比べて2倍から最大で6倍以上にも跳ね上がりました。
感度が飛躍的に上がるということは、「ごく初期のガン細胞が発する微量なタンパク質」や「食品に混ざった極微量の不純物」を確実に見つけ出せるようになるということです。
医療の早期診断や、新薬の開発スピードを裏側から強力に支える、日本が世界に誇る分析機器メーカーの凄みを感じる発明です。
特許情報まとめ
| 発明の名称 | 質量分析装置及びイオン検出装置 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第6593548号 |
| 特許権者 | 株式会社島津製作所 |
| 発明者 | 西口 克 |
| 出願日 | 平成28年10月24日 (2016.10.24) ※国際出願日 |
| 登録日 | 令和1年10月4日 (2019.10.04) |
| 受賞歴 | 令和7年度 近畿地方発明表彰 文部科学大臣賞 ※併せて「実施功績賞」を受賞 |
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