Patent Memo
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【素材・化学】印刷で電子回路を作る!NIMSの「酸化しない銅インク」

素材・建材・化学 半導体・IT 作成日: 2026.03.10
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今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「未来創造発明賞」を受賞した、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の「銅ニッケル合金電極用導電性インク、銅ニッケル合金電極付基板、および、それらの製造方法(特許第7531239号)」です。

紙やフィルムにプリンターで印刷するように電子回路を作る「プリンテッドエレクトロニクス」は、ウェアラブル端末やIoTセンサーの大量生産技術として期待されています。

配線のインク(導電性インク)には、電気を通しやすく安価な「銅」が理想的ですが、銅は空気中で簡単に「酸化(サビ)」してしまい、電気が通らなくなるという致命的な弱点がありました。この特許は、銅のインクに「ニッケル錯体」をブレンドすることで、酸化を完全に防ぐ次世代のハイブリッドインクを実現した、素材化学のブレイクスルーです。

【課題】安くて優秀な「銅」の、たった一つの弱点

これまで、プリンテッドエレクトロニクスの導電性インクには、主に「銀(Ag)」が使われてきました。銀は酸化しにくく電気をよく通しますが、非常に高価であるため、使い捨てのセンサーなどに大量に使うにはコストが見合いません。

そこで、銀の100分の1以下の価格である「銅(Cu)」のインクに注目が集まりました。しかし、銅のナノ粒子は空気に触れると瞬時に酸化して「酸化銅(絶縁体)」になってしまいます。酸化を防ぐためには、高価な還元ガス雰囲気下で高温処理をしなければならず、結局コストが高くついてしまうというジレンマがありました。

【解決策】錯体化学の力で「銅」と「ニッケル」を融合

NIMSの研究チームは、銅の酸化を防ぐために「ニッケル(Ni)」との合金化に着目し、独自の「錯体(さくたい)インク」を開発しました。

曲げられるフィルム基板上に形成された銅ニッケル合金電極の写真
図1:開発されたインクをフィルム基板に塗布し、焼成して作られた電極。指で大きく曲げても割れない柔軟性(フレキシビリティ)を備えています。(出典:特許第7531239号)

1. 「錯体」の状態で混ぜ合わせる

単に銅とニッケルの金属の粉を混ぜるのではなく、「ギ酸銅」と「ギ酸ニッケル」にそれぞれ特殊なアミン(配位子)を結合させた『錯体』という液状の分子レベルで混合しました。

この「銅錯体とニッケル錯体の混合インク」を基板に印刷し、比較的低い温度で加熱(焼成)すると、錯体が分解されて純粋な金属に戻りながら、銅とニッケルが均一に混ざり合った「合金」の電極が形成されます。

時間経過に伴う相対抵抗の増加を示すグラフ
図2:過酷な環境下での酸化耐性テスト。銅単体のインク(例21の黒線)は時間とともに急速に酸化して抵抗値が跳ね上がりますが、ニッケルを配合したインク(例1, 6~8の線)は抵抗が全く上がらず、酸化を完璧に防いでいます。(出典:特許第7531239号)

2. 圧倒的な「酸化耐性」の獲得

公報のデータ(上記図2)は、この発明の凄さを如実に物語っています。高温多湿の過酷な環境に置いた場合、ニッケルを混ぜていない銅単体のインク(例21)は急速に酸化して電気抵抗が数千倍に跳ね上がります。

しかし、本発明の銅ニッケル合金インク(例1, 6~8など)は、時間が経っても抵抗値のグラフが地面に這いつくばったまま、全く上昇していません。ニッケルが銅を酸化から見事に守り抜いているのです。

💡 技術のポイント:大気中で、光を当てるだけで焼成できる

さらに画期的なのは、このインクは「大気中(普通の空気中)」で、特殊なフラッシュ光を当てるだけ(光焼成)で電極を作ることができる点です。酸素を追い出す特別な装置が不要になり、製造コストを劇的に下げることに成功しています。

【効果】IoT社会を加速させる究極のエコ・プロセス

この特許技術により、以下のような未来が実現に近づいています。

  • デバイスの低価格化: 高価な銀インクから、安価な銅ベースのインクに置き換わることで、ウェアラブル端末や使い捨てセンサーのコストが大幅に下がります。
  • 環境負荷の低減: 大規模な真空設備や高温の加熱炉が不要になるため、電子回路の製造に伴う消費エネルギー(CO2排出)を劇的に削減できます。

材料科学の力で、電子デバイス製造の常識を根底から覆す、まさに「未来創造」の名にふさわしい素晴らしい発明です。

技術情報まとめ

発明の名称 銅ニッケル合金電極用導電性インク、銅ニッケル合金電極付基板、および、それらの製造方法
特許番号 特許第7531239号
特許権者 国立研究開発法人物質・材料研究機構
発明者 李 万里、三成 剛生
出願日 令和3年11月19日 (2021.11.19) ※国際出願日
登録日 令和6年8月1日 (2024.08.01)
受賞歴 令和7年度 全国発明表彰 未来創造発明賞
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