【素材・化学】チーズの「華やかな香り」を科学する!明治の乳酸菌ブレンド技術
今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「発明賞」を受賞した、株式会社明治の「ナチュラルチーズおよびその製造方法(特許第6084162号)」です。
パルメザンチーズなどの長期熟成チーズを食べたとき、口の中に広がる「パイナップルのような華やかでフルーティーな香り」を感じたことはありませんか?
この特許は、あの美味しさの正体である香り成分(エステル香)を、人工的な香料に頼るのではなく、特定の2種類の「乳酸菌」をチームとして働かせることで自然に、かつ大量に生み出すことに成功した、食品バイオテクノロジーの画期的な発明です。
【課題】エステル香を「自然に」作り出すのは難しい
チーズの華やかな香りの主成分は、「酪酸エチル(エチルブチレート)」や「カプロン酸エチル(エチルヘキサノエート)」などのエステル類と呼ばれる物質です。
これらの成分は、チーズの熟成中に「エタノール」と「脂肪酸」が結合(エステル化)することで生まれます。しかし、通常のチーズ製造では材料となる「エタノール」が不足しがちなため、十分な香りを引き出すためには年単位の長い熟成期間が必要でした。
【解決策】2つの乳酸菌による「見事な連携プレイ」
明治の研究チームは、自社が保有する膨大な乳酸菌ライブラリの中から、このエステル香を効率よく生み出す「黄金の組み合わせ」を発見しました。
1. L. fermentumが「エタノール」を大量生産する
まず注目したのが、「ラクトバチルス・フェルメンタム(L. fermentum OLL203697株など)」という乳酸菌です。この菌はエタノールを作る能力を持っていますが、単独で培養してもそれほど多くのエタノールを作りません(図1の「☆only」のグラフ)。
しかし、ここにチーズ製造で一般的な「L. casei(ラクトバチルス・カゼイ)」などの別の乳酸菌を混ぜて一緒に培養(共培養)すると、互いに影響し合い、エタノールの生成量が劇的に跳ね上がることを発見したのです(図1の黒いグラフ)。
2. 大量のエタノールから「華やかな香り」が生まれる
この「共培養」によって大量に作られたエタノールは、チーズの中で脂肪酸と結びつき、結果として「酪酸エチル」などのエステル香(華やかな香り)を大量に合成します。
公報のデータ(図2)が示す通り、この技術を用いたチーズ(製造番号4-Bなど)は、熟成期間中における酪酸エチル濃度が非常に高く、熟練のパネラーによる官能評価でも「パイナップル様の華やかな香りがある(スコア5)」と圧倒的な高評価を獲得しました。
この特許で重要な役割を果たしている「L. fermentum OLL203697株」は、明治が長年かけて探し出した独自の乳酸菌です。日本の風土(北海道・十勝)が育んだ自然の菌の力を、緻密な科学的データで裏付け、誰もが美味しいと感じる商品にまで高め上げた点に、この発明の凄みがあります。
【効果】「スマートチーズ」の美味しさの秘密
この発明により、日本人の味覚に合う、以下のような高品質なチーズの製造が可能になりました。
- 圧倒的な香りの良さ: 人工香料を使わずに、長期熟成チーズ特有のフルーティーで芳醇な香りを自然に実現できます。
- 製造効率の向上: 2つの乳酸菌の相乗効果を利用することで、比較的短い期間でもしっかりとした風味を引き出すことができます。
スーパーの棚に並ぶ身近な美味しいチーズの裏側に、これほどまでに奥深い「バイオテクノロジー」が隠されているとは驚きですね。
技術情報まとめ
| 発明の名称 | ナチュラルチーズおよびその製造方法 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第6084162号 |
| 特許権者 | 株式会社明治 |
| 発明者 | 城ノ下 兼一、土橋 英恵、小森 素晴、齋藤 瑞恵 |
| 出願日 | 平成24年10月25日 (2012.10.25) ※国際出願日 |
| 登録日 | 平成29年2月3日 (2017.02.03) |
| 受賞歴 | 令和7年度 全国発明表彰 発明賞 |
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