Patent Memo
技術の「すごい」を特許公報・意匠公報から読み解く解説メモ

【素材・化学】植物由来で軽くて強い!アシックスの「CNF配合シューズ用緩衝材」

素材・建材・化学 スポーツ・ヘルスケア 作成日: 2026.03.05
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今回ご紹介するのは、令和7年度 全国発明表彰において「発明賞」を受賞した、株式会社アシックスの「ミッドソール及び靴(特許第6864785号)」です。

ランニングシューズなどの衝撃を吸収する「緩衝材(ミッドソール)」。ランナーの足の負担を減らすためには「軽さ」が何より重要ですが、素材を軽くしようとすると、クッションの強度が落ちてへたってしまうという物理的なジレンマがありました。

この特許は、植物由来の極細繊維「セルロースナノファイバー(CNF)」を発泡樹脂に練り込むことで、ミクロの泡の壁を鉄筋コンクリートのように補強し、驚異的な軽さと強度を両立させた画期的な素材技術です。

【課題】軽くするために気泡を増やすと、強度が落ちてしまう

シューズの底に使われるスポンジ(樹脂発泡体)を軽くする最も簡単な方法は、発泡倍率を上げて内部に「空気の穴(気泡)」を増やすことです。

しかし、気泡を増やして高空隙化すると、気泡と気泡を隔てる「壁」の部分が極端に薄くなります。その結果、着地の強い衝撃によって壁がすぐに破れたりへたったりしてしまい、シューズの寿命と反発性能が著しく低下してしまうという課題がありました。

【解決策】気泡の壁に「CNF」を埋め込んで鉄筋のように補強する

アシックスは、鋼鉄の5分の1の軽さでありながら5倍の強度を持つと言われる次世代の植物由来素材「セルロースナノファイバー(CNF)」に着目し、これをミッドソールの素材に融合させました。

シューズの全体構造を示す斜視図
図1:靴の全体斜視図。本発明の素材は、足裏の衝撃を直接吸収するミッドソール部分(図中の符号3)に採用されています。(出典:特許第6864785号)

1. 気泡壁にCNFが綺麗に並ぶミクロの構造

微細なCNF(Cel NF)を樹脂に均一に分散させて発泡させると、樹脂が膨らんで気泡ができる際、気泡を形作る極薄の「壁」の中にCNFが取り込まれ、壁に沿うように綺麗に配列して埋没します。

これがちょうど「鉄筋コンクリートにおける鉄筋」のような役割を果たし、薄くて軽いスポンジの壁であっても、着地の強い衝撃を跳ね返す強靭な骨格を形成します。

セルロースナノファイバー配合による物性評価の表
表1:CNF(表内の「Cel NF」)を配合した実施例の物性評価表。超軽量(低い比重)を維持しながら、高い「引裂強さ」や「圧縮弾性率」を叩き出していることがデータで実証されています。(出典:特許第6864785号)

2. 複雑なデザインを可能にする「意匠賦形性」

さらに、公報の表(上記表1)の「賦形性(ふけいせい)」の項目を見ると、CNFを配合した実施例において高い評価(◯)を得ていることがわかります。CNFの配合によって成形時の樹脂の収縮が適度に抑えられ、金型の細かい凹凸模様を正確に転写できるようになったため、デザイン性が高くスタイリッシュなシューズを大量生産することが可能になりました。

💡 技術のポイント:エコとパフォーマンスの融合

この発明は、製品の性能を上げるだけでなく、環境問題の解決にも直結しています。化石燃料由来のプラスチック樹脂の使用量を減らし、植物由来の再生可能資源であるCNFを活用することで、製造時のCO2排出量削減に大きく貢献している点が高く評価されています。

【効果】ランナーと地球の双方に優しい次世代シューズへ

この特許技術により、以下のような効果がもたらされました。

  • 圧倒的な軽量化と耐久性の両立: 非常に軽く、かつ長距離を走ってもクッション性が失われない高品質なシューズが実現しました。
  • サステナビリティへの貢献: 植物由来素材の活用と軽量化による省資源化で、環境に優しいモノづくりを達成しました。

日本の優れた「素材科学」の力を、アスリートを支えるスポーツギアに見事に落とし込んだ、未来志向の素晴らしい発明です。

技術情報まとめ

発明の名称 ミッドソール及び靴
特許番号 特許第6864785号
特許権者 株式会社アシックス
発明者 立石 純一郎
出願日 平成30年5月18日 (2018.05.18) ※国際出願日
登録日 令和3年4月6日 (2021.04.06)
受賞歴 令和7年度 全国発明表彰 発明賞
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