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【素材・化学】レトルト後も透明で高バリア!ユニチカの「ガスバリア性積層体」

素材・化学 食品・ライフスタイル 作成日: 2026.03.24
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今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「大阪府知事賞」を受賞した、ユニチカ株式会社の「ガスバリア性積層体(特許第5731713号)」です。

食品の賞味期限を延ばすために欠かせないパッケージフィルム。中身を美味しく見せるためには「透明性」が、酸素による劣化を防ぐためには「ガスバリア性」が求められます。

本特許は、過酷なレトルト殺菌(熱水処理)を行っても、白く濁ったりバリア性が落ちたりしない、環境に優しい非塩素系の画期的なバリアフィルム技術です。

【課題】レトルト処理による「白化」と「バリア性の低下」

食品パッケージのフィルムには、酸素の侵入を防ぐバリアコーティングが施されています。近年では環境配慮の観点から、塩素を含まない材料として、ポリアクリル酸などのポリカルボン酸系ポリマーと金属化合物を混ぜて「イオン架橋(化学的な網目構造)」を形成する技術が注目されてきました。

しかし、これらを一つの層に混ぜて塗ろうとすると、塗る前の液体の段階で反応して固まってしまうという製造上の問題がありました。

また、食品を殺菌するためのボイルやレトルト処理(高温の熱水処理)を行うと、フィルムが水分を吸って白く濁ってしまう「白化現象(ヘイズの悪化)」が起きたり、熱と水分のダメージでバリア性自体が低下してしまったりするという大きな課題を抱えていました。

【解決策】「金属含有層」と「樹脂層」を分けて隣接させる

ユニチカは、反応しやすい成分をあらかじめ混ぜるのではなく、それぞれ「別々の層」として基材に塗り重ね、熱処理の段階で強固に結びつけるというアプローチでこの課題を解決しました。

実施例および比較例の評価データ(表1)
表1:実施例および比較例の層構成と評価結果。プラスチック基材の上に「金属含有層(M)」と「ガスバリア層(II)」を積層した基本構成において、熱水処理後も優れた酸素透過度と低いヘイズ(濁り度)を達成しています。(出典:特許第5731713号)

1. 反応成分を別々の層にして塗布する新発想

本技術では、表1の層構成「M/II」などに示されるように、多価金属化合物(酸化マグネシウム等)を含む「金属含有層(M)」と、ポリカルボン酸系ポリマーを含む「ガスバリア層(II)」をあえて分けて積層します。

層を分けることで、塗布液の段階で固まってしまう問題を回避し、均一で綺麗なコーティングが可能になります。そして、乾燥やその後のレトルト処理によって熱と水分が加わると、隣接する層の境目から金属イオンが移動し、成分同士ががっちりと手を結ぶ強固な「イオン架橋」が形成されます。

2. 金属化合物の量と多様な層構成の緻密なコントロール

さらに、透明性を保つためには各層の成分バランスが極めて重要です。本特許では、金属含有層(M)に含まれる金属化合物の量を「0.1〜50質量%」の範囲に緻密に制御しています。

樹脂層を追加した実施例および比較例の評価データ(表2)
表2:さらに樹脂層(R)を追加した応用構成の評価結果。「R/M/II」といった複雑な層構成にしても、金属化合物の含有量が適正範囲内であれば、優れたガスバリア性と透明性(低いヘイズ)を維持できることが実証されています。(出典:特許第5731713号)

表2の比較例5や6に見られるように、金属化合物が多すぎるとフィルムが白濁(ヘイズの悪化)したり、延伸できなくなったりします。しかし、適正な配合量にコントロールされた実施例では、層構成を「R/M/II(樹脂層を追加)」などにアレンジしても、熱水処理に耐えうる強固なバリア網目を構築しつつ、ガラスのような高い透明性を維持することに成功しました。

💡 技術のポイント:過酷な「熱水処理」を逆利用してバリアを強固に

この特許の最も秀逸な点は、従来はフィルムにダメージを与えてバリア性を下げていた「ボイルやレトルトによる熱と水分」を、逆に「イオン架橋をさらに進行させてバリア層を強固にするためのプロセス」として積極的に利用したことです。層を分けておくことで、食品の殺菌工程そのものがフィルムの性能を完成させるトリガーになるという、見事な逆転の発想が光っています。

【効果】食品の長期保存と美味しさを届ける次世代パッケージ

このガスバリア性積層体により、食品パッケージ業界に以下のような大きな効果がもたらされます。

  • レトルト後も中身がクリアに見える: 高温の熱水処理を行っても白化が起きないため、透明なパッケージで消費者に中身の美味しさや具材感をそのままアピールできます。
  • 高いガスバリア性によるフードロス削減: 処理後も酸素の侵入を強力に防ぐため、食品の酸化や風味の劣化を抑え、賞味期限の延長に貢献します。
  • 環境に配慮した非塩素系素材: 焼却時に有害ガスが発生する恐れのある塩素系材料(PVDCなど)を使用しないため、環境負荷の低減(SDGs)に直結します。

環境対応と高い機能性を両立し、私たちの食生活の安全と豊かさを包み込むこの技術は、大阪府知事賞の受賞にふさわしい、社会貢献度の高い素晴らしい発明です。

【補足】この記事で登場した技術キーワード

ガスバリア性
酸素や水蒸気などの気体が材料を透過するのを遮断する性質です。食品包装においては、外部からの酸素侵入による酸化や、内部からの水分蒸発を防ぐことで、内容物の鮮度と風味を長期間維持する重要な役割を果たします。
レトルト処理
密閉した容器に食品を詰め、一般的に100℃を超える高温・高圧の熱水や蒸気で加熱殺菌を行うプロセスです。包装材には、この過酷な環境下でも破袋せず、かつ内容物を保護するためのバリア性能を損なわない高い物理的・化学的安定性が求められます。
イオン架橋
高分子(ポリマー)の分子鎖同士を、金属イオンを介して電気的に結びつける化学結合の一種です。この結合によって材料内部に強固な三次元網目構造が形成されるため、耐熱性や機械的強度が向上し、分子間の隙間を密に塞ぐことで気体の透過を物理的に抑制する効果が生まれます。

特許情報まとめ

発明の名称 ガスバリア性積層体
特許番号 特許第5731713号
特許権者 ユニチカ株式会社
発明者 前原 淳、岡部 貴史、南條 一成、穴田 有弘
出願日 平成25年9月10日 (2013.9.10) ※国際出願日
登録日 平成27年4月17日 (2015.4.17)
受賞歴 令和7年度 近畿地方発明表彰 大阪府知事賞
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