Patent Memo
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【食品・ライフスタイル】もう靴下は脱げない!岡本の「ハチの巣型滑り止め」

食品・ライフスタイル 製造・生産技術 作成日: 2026.03.25
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今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「奈良県知事賞」を受賞した、岡本株式会社の「靴下(意匠登録第1694733号)」です。

パンプスやスニーカーに合わせて履く「浅履きソックス(カバーソックス)」は、歩いているうちに靴の中でかかとから脱げてしまうという、多くの人が抱える日常の不満がありました。

本意匠は、かかとの内側に「ハチの巣型(ハニカム構造)」の滑り止めを配置することで、この長年の悩みを「絶対に脱げない」レベルで解決した、アパレル・日用品における大ヒットデザイン(ココピタ等に採用)です。

【課題】「浅履きソックス」はどうしても脱げてしまう

靴から見えないように浅く作られたカバーソックスは、足の甲を覆う生地が少ないため、靴と足との摩擦によって歩行中にどうしてもかかとからズレ落ちてしまいます。

これを防ぐため、従来からかかとの内側にシリコン等の滑り止めを付けた商品は存在していました。しかし、ただのベタ塗りや波線状のシリコンでは、汗をかくと滑りやすくなったり、前後左右のあらゆる方向からの引っ張りには耐えられず、結局は完全に脱げを防ぐことは困難でした。

【解決策】「ハチの巣型」の滑り止めによる全方位ホールド

岡本株式会社は、滑り止めの形状そのものを根本から見直し、自然界で最も安定した構造の一つである「ハニカム(六角形)構造」を滑り止めに採用するという画期的な意匠を創作しました。

ハチの巣型(ハニカム構造)の滑り止め拡大図
図1:かかと内側に配置された滑り止めの拡大図。六角形が連続するハニカム構造が形成されています。(出典:意匠登録第1694733号)

1. ハニカム構造による全方向へのグリップ力

図1に示されるように、かかとの内側に六角形が連なるハチの巣状の滑り止めが配置されています。

六角形を組み合わせたハニカム構造は、縦・横・斜めのどの方向から力が加わっても、均等に力を分散して受け止める特性があります。これにより、歩行中の複雑な足の動きや、靴と擦れることによる様々な方向への摩擦に対しても、滑り止めがしっかりと皮膚に追従・密着し、ズレを強力に防ぎます。

2. 快適性を損なわない絶妙な「隙間」

滑り止めの面積をただベタ塗りで広げてしまうと、汗でムレたり皮膚が強く引っ張られて痛くなったりします。

靴下全体における滑り止めの配置図
図2:靴下の側面から見た図(一部)。かかとの縁に沿うように、絶妙な面積と形状で滑り止めが配置されています。(出典:意匠登録第1694733号)

図2のようにかかとをホールドしつつ、ハニカム構造のように「枠」の形状にすることで、皮膚との接触面積を最適化しています。これにより、六角形の「隙間(空間)」から汗や湿気を逃がすことができ、高いグリップ力を発揮しながらも快適な履き心地を維持することが可能になりました。

💡 技術のポイント:機能と形状の美しい融合

この意匠の最も秀逸な点は、「絶対に脱げない」という究極の機能性を、六角形の連続という「デザイン(形状)」によって見事に実現した点にあります。見た目の幾何学的な特徴だけでなく、力の分散と通気性という物理的な課題を同時にクリアした、意匠権で保護されるにふさわしい「機能美」を体現しています。

【効果】足元のストレスをなくし、累計数千万足の大ヒットへ

このハチの巣型滑り止めを備えた靴下により、消費者に以下のような大きな効果がもたらされました。

  • 歩行中の不快なストレスを完全解消: 道の真ん中で靴下を直す恥ずかしさや、靴の中で丸まる不快感をなくし、ストレスフリーな歩行を実現しました。
  • 汗をかいても快適なホールド力: 通気性を確保した形状により、長時間の着用や夏場の使用でも滑り止め効果が落ちにくくなりました。
  • 浅履きソックス市場の再燃: 「本当に脱げない」という口コミが広がり、カバーソックスへの不満を解消したことで、累計販売数数千万足を超える歴史的な大ヒット商品を生み出しました。

靴下の「脱げるもの」という常識を覆し、日常の小さな(しかし確実な)ストレスをデザインの力で解決した本意匠は、奈良県知事賞の受賞も納得の、消費者に徹底的に寄り添った素晴らしい製品デザインです。

【補足】この記事で登場した技術キーワード

ハニカム構造
正六角形を隙間なく並べた幾何学的な構造です。自然界では蜂の巣に見られ、工学的には「軽量でありながら高い強度を持つ」「あらゆる方向からの力(応力)を均等に分散する」という優れた物理的特性を持ちます。柔軟な素材に適用した場合、多方向への伸縮性と安定したグリップ力を高い次元で両立させるのに適しています。
摩擦力(グリップ力)
接触している二つの物体の間に働く、相対的な運動を妨げる方向の力です。最大静止摩擦力 Ff は、摩擦係数 μ と垂直抗力 Fn を用いて Ff = μ Fn と定義されます。滑り止め材としては、素材の粘弾性を利用して摩擦係数を高めるだけでなく、表面の形状を工夫することで実効的な接触面積を制御し、動的な負荷がかかる環境下でのスリップを防止します。
応力分散
外部から一点に集中しようとする力(応力)を、構造によって広い範囲へ逃がして和らげることです。衣類においては、特定の部位に過度なテンションがかかるとズレや破損の原因となりますが、力を分散させるパターンを配置することで、皮膚への刺激や圧迫感(不快感)を最小限に抑えつつ、安定したホールド性能を維持することが可能になります。

意匠情報まとめ

意匠に係る物品 靴下
意匠登録番号 意匠登録第1694733号
意匠権者 岡本株式会社
創作者 城野 啓太
出願日 令和2年8月24日 (2020.8.24)
登録日 令和3年8月25日 (2021.8.25)
受賞歴 令和7年度 近畿地方発明表彰 奈良県知事賞
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