Patent Memo
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【食品・ライフスタイル】足裏から身体を支える!ニッティドの「エアークッション編み技術」

食品・ライフスタイル 製造・生産技術 作成日: 2026.03.20
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今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「発明協会会長賞」を受賞した、ニッティド株式会社の「肉厚部を備えた横編地の編成方法、及び肉厚部を備えた横編地(特許第6415680号)」です。

スポーツ用や立ち仕事用の靴下には、足の負担を軽減するために底が分厚くなった「クッションソックス」がありますが、履いているうちにすぐにペシャンコになってしまった経験はないでしょうか。

本特許は、編み機(横編機)の複雑な制御を駆使し、生地と生地の間に立体的な「空間(エアークッション)」を作り出すことで、何度履いてもへたらない究極のクッション性を実現した、日本の繊維産業が誇る革新的な技術です。

【課題】従来の「パイル編み」はすぐにへたってしまう

これまで、靴下などにクッション性を持たせる場合、タオルの表面のように糸の輪っか(ループ)をフカフカに飛び出させる「パイル編み」が一般的でした。

しかし、パイル編みのループは構造上、根元から倒れやすいという弱点があります。最初は柔らかくても、体重による圧力や歩行時の摩擦、さらには日々の洗濯を繰り返すうちに、ループが寝たまま潰れて固くなってしまいます。

一度パイルが倒れてしまうとクッション性は失われ、足への衝撃を吸収できなくなるため、足の疲れや身体のバランスの崩れに繋がるという課題がありました。

【解決策】表地と裏地を「柱」で繋ぎ、中空構造を作る

ニッティド株式会社は、糸をタオルのように飛び出させるのではなく、生地の中に「立体的な空間(空洞)」を形成するという、建築のトラス構造のようなアプローチでこの課題を解決しました。

靴下の足底に配置されたクッション部
図1:本特許の技術を用いた靴下の足底部。指の付け根(4a, 4b)や踵(8)など、体重の負荷が大きくかかる部位に集中的に立体的な肉厚部(エアークッション)が編成されています。(出典:特許第6415680号)

1. 表側と裏側の2層構造を「タック」で結合

本技術では、横編機の「前側針床(前の針)」と「後側針床(後ろの針)」を巧みに使い分けます。

まず、表側の生地と裏側の生地を別々に編み進め、筒状の2層構造を作ります。そして特定のポイントで、表と裏の編地を繋ぎ合わせる「タック(引っ掛け)」という編み方を挿入します。これにより、表地と裏地が完全に離れてしまうことなく、適度な間隔を保ったまま繋ぎ止められます。

2. 糸が交差して空間を支える「エアークッション」

ただ繋ぐだけではありません。表と裏を繋ぐ糸が、編地の内部で斜めに交差するように計算して編まれています。

エアークッション部のループ構造図
図2:クッション部の編み目構造図。表側(上部)と裏側(下部)の編地が、内部のタック糸(T1〜T5など)によってジグザグに繋がれ、潰れにくい立体空間が確保されています。(出典:特許第6415680号)

図2のように、表裏を繋ぐ糸が「柱」や「スプリング」のような役割を果たします。これにより、上から体重がかかっても、内部の空間がクッションとして反発し、足を離せばまた元の立体構造に復元します。空気をたっぷり含んだ、まさに「エアークッション」が糸だけで形成されているのです。

💡 技術のポイント:ループの「毛足」から、編地の「構造」への転換

この特許の最も秀逸な点は、クッション性の出し方を「糸を長く出してフカフカにする(素材依存)」という従来の発想から、「表と裏の編地の間に、糸でトラス構造のような立体空間を作る(構造依存)」という全く新しいパラダイムへ転換したことです。建築物のように構造で強度を出しているため、洗濯や体重負荷に対して圧倒的な耐久性(へたりにくさ)を発揮します。

【効果】足元から健康をサポートする次世代のニット製品へ

このエアークッション編み技術により、アパレル・ヘルスケア製品に以下のような大きな効果がもたらされます。

  • 圧倒的な耐久性とクッション性の持続: ループが倒れるパイル編みとは異なり、立体構造が維持されるため、長期間履き続けてもクッション性が低下しません。
  • 足裏アーチの保護と身体バランスの向上: 足の負担がかかる部位(母趾球や踵など)に最適な反発力を持たせることで、足裏のアーチを正しく支え、全身の姿勢や運動パフォーマンスを向上させます。
  • 優れた通気性と快適性: 内部にエアー(空間)が含まれているため、保温性を持ちながらも通気性が良く、足の蒸れを防いで快適な履き心地を提供します。

たかが靴下、されど靴下。人間の体重を支え続ける過酷な環境において、「編み方」の工夫だけで機能性と耐久性を劇的に向上させた本技術は、発明協会会長賞の受賞にふさわしい、生活の質(QOL)を高める素晴らしいイノベーションです。

【補足】この記事で登場した技術キーワード

横編機
左右に往復する給糸口(キャリア)から糸を供給し、前後に配置された針床の針を用いて生地を編み立てる機械です。一目ずつ針の動きを制御できるため、複雑な成形編みや、表裏で異なる構造を持つ多層編地の編成に適しています。
タック編み
既に針にかかっているループ(編目)を外さずに、新しい糸を重ねて保持する編成手法です。編地の厚みを増したり、複数の編地を特定のポイントで接結したりする際の連結点として機能し、編地全体の形状や強度をコントロールするのに用いられます。
パイル編み
地組織の糸とは別に、表面に長いループ状の糸(パイル)を突き出させる編み方です。ループによる空気層が柔軟性や吸水性をもたらしますが、ループ単体では物理的な圧縮に対する復元力に限界がある特性を持ちます。

特許情報まとめ

発明の名称 肉厚部を備えた横編地の編成方法、及び肉厚部を備えた横編地
特許番号 特許第6415680号
特許権者 ニッティド株式会社
発明者 井戸端 康宏
出願日 平成29年12月28日 (2017.12.28)
登録日 平成30年10月12日 (2018.10.12)
受賞歴 令和7年度 近畿地方発明表彰 発明協会会長賞
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