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【素材・化学】相反する性能を両立!新中村化学工業の「ハイブリッドポリマー」

素材・化学 電子・半導体 作成日: 2026.03.14
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今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「特許庁長官賞」を受賞した、新中村化学工業株式会社の「共重合体及びその製造方法、並びに共重合体組成物(特許第6542476号)です。

電子部品の製造工程などにおいて、金属粉末などをペースト状にして塗布・印刷するための「バインダー樹脂」には、非常にシビアな性能が求められます。

本特許は、これまでトレードオフの関係にあった「熱分解性」と「密着性・スクリーン印刷性」を、2つの異なる樹脂成分を化学的に結合(共重合)させることで見事に両立させた、素材産業における重要な特許技術です。

【課題】「熱分解性」と「印刷・密着性」のトレードオフ

電子部品のペーストに用いるバインダー樹脂には、「熱分解性」、「密着性」、「塗布膜質」、そして「スクリーン印刷性」といった複数の特性が同時に求められます。

しかし、これらの特性をすべて満たすことは容易ではありません。特定の樹脂は印刷性に優れていても熱分解性に劣り、逆に熱分解性に優れた樹脂は硬くて脆く、密着性や印刷性が悪いといった問題がありました。

従来はこれらを単に「混ぜ合わせる(物理的ブレンド)」ことで解決しようとしていましたが、異なる性質の樹脂をブレンドしただけの混合物(比較例1や比較例2など)では、密着性、塗布膜質、スクリーン印刷性の評価が「B」にとどまり、十分な性能を発揮できないという大きな課題がありました。

【解決策】物理的ブレンドではなく、化学的に「共重合」させる

新中村化学工業株式会社は、単純に混ぜ合わせるのではなく、「ポリビニルアセタール系」と「セルロース系」の成分を化学的に結合させる「共重合」というアプローチでこの課題を解決しました。

共重合体の概念イメージ表
表1:各実施例および比較例におけるバインダーの組成表。ポリビニルアセタール系重合性化合物とセルロース系重合性化合物の配合比や、他のモノマーの添加、数平均分子量(Mn)が詳細にコントロールされています。(出典:特許第6542476号)

1. ポリビニルアセタール系とセルロース系のハイブリッド化

本技術の核心は、バインダーの組成として「ポリビニルアセタール系重合性化合物」と「セルロース系重合性化合物」を組み合わせた共重合体を合成したことにあります。

実施例1に見られるように、これら2つの成分を例えば配合比「10/10」の割合で反応させることで、単一の新しいポリマー(共重合体)を作り出しました。また、実施例4のように配合比を「15/5」と変化させるなど、分子レベルで2つの特性を融合させています。

2. 分子量の精密なコントロールと他のモノマーの追加

さらに、ポリマーの「数平均分子量(Mn)」を緻密に制御している点も見逃せません。実施例では、数平均分子量(Mn)がおおよそ30,500(実施例20)から81,000(実施例16)の範囲になるように合成されています。

また、必要に応じてBMAやMMAといった「他のモノマー」を配合比に加えることで(実施例2や実施例14など)、用途に合わせたさらなる特性のチューニングも可能にしています。

実施例と比較例の評価結果データ
表2:各実施例と比較例の性能評価結果。共重合させた実施例の多くが全項目で「A」を獲得し、実施例4も実用的な水準をクリアしています。(出典:特許第6542476号)
💡 技術のポイント:物理的な「混合」から化学的な「結合」への転換

この特許の最も秀逸な点は、従来技術の限界であったブレンドによる性能低下の壁を、「初めから化学的に1つの鎖(共重合体)にしてしまう」というアプローチで突破したことです。成分を単に混ぜただけの比較例1や比較例2では性能が低下していますが、共重合させた実施例の大半において、すべての評価項目で「A」評価を獲得しています。配合比が異なる実施例4においては熱分解性が「B」となっていますが、それでも比較例と比べて実用上十分な水準を確保しており、共重合による圧倒的な優位性がデータとして如実に示されています。

【効果】次世代の微細な電子部品製造を支える基盤技術

この共重合体技術によって、電子部品の製造現場に以下のような大きな効果がもたらされます。

  • 相反する4つの性能の完全な両立: 「熱分解性」「密着性」「塗布膜質」「スクリーン印刷性」という、従来は両立が困難だった4つの評価項目すべてにおいて、最高評価(A)を達成する品質を実現しました。
  • 焼成後の不純物リスクの大幅低減: 優れた熱分解性により、バインダー樹脂が焼成工程で綺麗に消失するため、電子部品の性能劣化の原因となる残留物を防ぎます。
  • 製造プロセスの安定化: 単なる混合物とは異なり、高い密着性とスクリーン印刷性を維持できるため、コンデンサ等の高精度な製造歩留まりを向上させます。

電子部品がますます小型化・大容量化・高信頼性を求められる中、この技術は最先端のモノづくりを「素材の根本」から支える、極めて実用的で価値の高い発明と言えます。特許庁長官賞の受賞も納得の素晴らしい成果です。

【補足】この記事で登場した技術キーワード

【補足】この記事で登場した技術キーワード

バインダー樹脂
粉末状の材料を結合させて特定の形状に保持するための架け橋となる高分子材料です。加工時には適切な粘度や密着性を与え、最終的な焼成工程では熱分解によって不純物を残さず除去されるという、一時的な「キャリア」としての機能が求められます。
共重合
2種類以上の異なるモノマーを同一の重合反応によって結合させ、1つの高分子鎖(ポリマー)を合成する手法です。それぞれのモノマーが持つ異なる特性を分子レベルでハイブリッド化できるため、単一の重合体や物理的な混合物では得られない複雑な物性設計が可能になります。
熱分解性
加熱によって高分子の化学結合が切断され、低分子化してガスとして揮散する性質です。電子部品などの製造プロセスにおいては、この分解温度や残留物の有無が、製品の最終的な品質や電気的特性の安定性に直結する重要なパラメーターとなります。

特許情報まとめ

発明の名称 共重合体及びその製造方法、並びに共重合体組成物
特許番号 特許第6542476号
特許権者 新中村化学工業株式会社
発明者 明石 量磁郎、西本 琢朗、古賀 徳仁
出願日 平成29年12月19日 (2017.12.19) ※国際出願日
登録日 令和1年6月21日 (2019.6.21)
受賞歴 令和7年度 近畿地方発明表彰 特許庁長官賞
※併せて「実施功績賞」を受賞
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