Patent Memo
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【食品・ライフスタイル】ホウレンソウ出荷を自動化!クボタの「絡まないブレード技術」

食品・ライフスタイル 機械・ロボット 作成日: 2026.04.01
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今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「大阪発明協会会長賞」を受賞した、株式会社クボタ、株式会社斎藤農機製作所、および農研機構の共同特許「ブレードを備えた作物調製機(特許第6831518号)」です。

ホウレンソウなどの軟弱な野菜の出荷において、根を綺麗に切り揃え、黄色くなった下葉を取り除く「調製作業」は、全作業時間の約6割を占めるほどの重労働でした。

本特許は、この調製作業を自動化する機械において、カットした葉が高速回転するブレード(刃)に絡みついて機械が止まってしまうという致命的な課題を、独自のカバー形状と気流のコントロールによって見事に解決した、スマート農業を加速させる機械設計技術です。

【課題】切り落とした葉がブレードに絡みつき、機械が止まる

自動で野菜を搬送しながら根や葉をカットする「調製機」では、高速回転するブレードが用いられます。しかし、ホウレンソウなどの葉は水分を多く含んでおり柔らかいため、カットされた直後の「切りくず」がブレードの回転軸に絡みついたり、周囲のカバーに張り付いて機内に滞留してしまうという問題がありました。

切りくずが詰まると、その度に機械を停止して清掃しなければならず、せっかく自動化しても「連続作業」の妨げになり、作業能率を大きく低下させる原因となっていました。

【解決策】刃の回転が生む「遠心力と気流」で切りくずを排出する

クボタと農研機構らは、切りくずを排出するために別途ファンなどの動力を追加するのではなく、「ブレード自身の回転力」を利用して切りくずをスムーズに機外へ誘導するカバー構造を発明しました。

軟弱野菜調製機の全体側面図
図1:調製機の全体側面図。作業者が野菜を供給すると、ベルトで搬送されながら内部のカッターで自動的に根切りと下葉の除去が行われます。(出典:特許第6831518号)

1. ブレードの回転に合わせたスリット(開口)の配置

下葉をカットするためのブレードを回転させるモーターの周囲には、飛散を防ぐためのカバーが設けられています。本技術では、このカバーの側面に、ブレードの回転方向に向かって開口する「スリット(切り欠き)」を絶妙な角度で配置しました。

2. 遠心力で切りくずを排出シュートへ一直線に飛ばす

ブレードが高速回転すると、カットされた葉は遠心力によって外側へ弾き飛ばされると同時に、カバーの内部に旋回気流が発生します。

ブレード周辺のカバーとスリットの拡大図
図2:ブレード周辺の拡大斜視図。回転刃(242A)を覆うカバー(245)に設けられたスリット(245c)から、切りくずが遠心力に乗って排出シュート(91)へとスムーズに誘導されます。(出典:特許第6831518号)

図2に示されるように、カバー内に設けられたスリットとガイド形状が、その遠心力と旋回気流を的確に受け止め、下方の排出シュートへと一直線に切りくずを誘導します。これにより、水分を含んだ葉であっても内部で滞留・絡みつくことなく、機外へ確実に排出されるようになりました。

💡 技術のポイント:刃の回転を「切る」だけでなく「捨てる」動力にする

この特許の最も秀逸な点は、切断のために必要な「ブレードの回転」を、そのまま切りくずを排出するための「気流と遠心力のポンプ」として再利用したことです。部品点数や動力源を増やすことなく、カバーの形状(スリット)の工夫だけで詰まりのない連続稼働を可能にした、極めてスマートな機械設計です。

【効果】農家の規模拡大と働き方改革を後押しする

このブレード排出構造を備えた調製機により、農業現場に以下のような劇的な効果がもたらされます。

  • 作業能率が従来の1.5倍に向上: 人手による作業や従来の機械に比べ、少人数(2名程度)でも大幅にスピーディで連続的な調製作業が可能になります。
  • 清掃・メンテナンスの手間を大幅削減: 切りくずの絡みつきや詰まりがなくなるため、機械を止めるダウンタイムが減少し、長時間の安定稼働を実現します。
  • 人手不足の解消と栽培面積の拡大に貢献: 最も過酷だった調製作業が省力化されることで、農家は労働負担を減らしつつ、栽培面積の拡大や高収益化に注力できるようになります。

日本の農業が抱える「重労働・人手不足」というリアルな課題を、農機メーカーならではの洗練された力学アプローチで解決した本特許は、大阪発明協会会長賞の受賞にふさわしい素晴らしい発明です。

【補足】この記事で登場した技術キーワード

軟弱野菜
ホウレンソウや小松菜など、組織が柔らかく水分含量が高い野菜の総称です。切断時に細胞から水分が染み出しやすく、粘着性を帯びるため、機械の回転部やカバー内壁へ付着・堆積しやすいという物理的特性を持ちます。
遠心力
回転運動をする物体が、その中心から遠ざかろうとする方向に受ける慣性力です。回転体の速度が速いほど、また回転半径が大きいほど強くなり、機械設計においては、不要な飛散物を特定の排出口へ向けて物理的に弾き飛ばすための動力源として利用されます。
旋回気流
限られた空間内で物体が高速回転することによって生じる、渦巻状の空気の流れです。この気流に乗せて軽量な物質を運搬する「空気輸送」の原理は、フィルタの目詰まり防止や粉塵の排出など、動力源を増やさずに異物を処理するスマートな解決策として多くの産業機械で応用されています。

特許情報まとめ

発明の名称 ブレードを備えた作物調製機
特許番号 特許第6831518号
特許権者 株式会社クボタ、株式会社斎藤農機製作所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者 小林 有一、中山 夏希、坪田 将吾、グエン ティタン ロアン、山口 正人、仲谷 章一、谷口 優太、本間 功、澁谷 透
出願日 平成29年11月6日 (2017.11.6)
登録日 令和3年2月2日 (2021.2.2)
受賞歴 令和7年度 近畿地方発明表彰 大阪発明協会会長賞
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