【素材・化学】製紙工程の汚れを劇的改善!片山化学工業研究所の「ピッチコントロール剤」
今回ご紹介するのは、令和7年度 近畿地方発明表彰において「中小企業庁長官賞」を受賞した、株式会社片山化学工業研究所の「ピッチコントロール剤(特許第7583453号)」です。
紙を製造する「抄紙(しょうし)工程」では、木材や古紙に含まれる樹脂成分などが固まって「ピッチ」と呼ばれる汚れになります。これが機械に付着すると、紙にシミができたり、最悪の場合は紙が途中で切れてしまう(断紙)など、生産現場にとって非常に頭の痛い問題を引き起こします。
本特許は、特定の天然由来成分(モノテルペン)と、性質の異なる複数の界面活性剤を絶妙なバランスで組み合わせることで、ピッチを微細に分散させて悪さを防ぐ、画期的な化学技術です。
【課題】製紙現場を悩ませる「ピッチ」の凝集と付着
製紙工程において発生するピッチ汚れは、粘着性が高く、配管や抄紙機のワイヤー、プレスロールなどにどんどん蓄積していきます。
一度凝集して大きな塊になったピッチが剥がれ落ちて紙の原料(パルプ)に混ざると、完成した紙に「しみ出し欠点」と呼ばれる汚れを生じさせます。また、機械の汚れは品質低下だけでなく、清掃のための機械停止を余儀なくされ、生産効率を大きく下げる原因にもなっていました。
近年は環境配慮から古紙の利用率が高まっていますが、古紙には様々なインクや接着剤(粘着ピッチ)が含まれており、ピッチトラブルは昔よりもさらに複雑で厄介な課題となっています。従来からピッチを分散させる薬剤はありましたが、多様化するピッチ成分に対して十分な効果を発揮できないケースが増えていました。
【解決策】モノテルペンと3種の界面活性剤の黄金レシピ
片山化学工業研究所は、ピッチを強力に溶解する成分と、それを水中に安定して漂わせる成分を精密に組み合わせるアプローチでこの課題を解決しました。
1. 「d-リモネン」によるピッチの溶解と分散
本技術のベースとなるのは、「モノテルペン」の一種である「d-リモネン」です。柑橘類の皮などにも含まれるこの成分は、樹脂や油分を溶かす優れた力を持っています。ピッチの塊を柔らかくし、微細にほぐすための強力な切り込み隊長として機能します。
2. 特性が異なる3つの「界面活性剤(A・B・C)」の相乗効果
ほぐしたピッチが再びくっつかないようにするため、本特許では特性の異なる3つの界面活性剤を組み合わせています。
表2に示されるように、ひまし油EOなどの「界面活性剤A」、セカンダリーアルコールEO/POなどの「界面活性剤B」、ステアリルアミンなどの「界面活性剤C」が厳選されています。これらは「HLB(親水性と親油性のバランス)」や「曇点(水に溶けなくなる温度)」がそれぞれ異なり、抄紙工程の複雑な水質や温度環境下でも、ピッチを水中に安定して分散し続ける役割を果たします。
この特許の最も秀逸な点は、単一の成分では解決できない複合的な汚れに対して、「成分同士の相乗効果」を科学的に見出した点です。表1の比較例を見ると、界面活性剤の一部が欠けているだけで欠点面積が跳ね上がり、ピッチ分散性も「×」や「△」に悪化しています。複数の界面活性剤をベストなバランスで共存させることで、初めて圧倒的なコントロール効果が生まれることがデータで証明されています。
【効果】高品質な紙づくりと、持続可能なリサイクルを支える
この進化したピッチコントロール剤により、製紙工場には以下のような大きな効果がもたらされます。
- 紙の品質トラブルの大幅削減: ピッチの再凝集を防ぐことで、完成した紙に発生する「しみ出し欠点」を劇的に減少させ、製品のロスを防ぎます。
- 抄紙機の稼働率・生産性の向上: 機械のワイヤーやロールへのピッチ付着が抑えられるため、清掃や断紙によるライン停止時間が減り、生産効率がアップします。
- 古紙リサイクルの促進に貢献: 粘着物の多い質の低い古紙を原料として使った場合でもトラブルを防げるため、資源の有効活用と環境負荷低減(SDGs)に直結します。
ペーパーレス化が進む一方で、段ボールなどの包装用紙の需要は高く、古紙利用の重要性は増すばかりです。現場の悩みの種であった汚れを「化学の力」で鮮やかに解決するこの薬剤は、中小企業庁長官賞にふさわしい、産業の裏側を支える立派なイノベーションです。
【補足】この記事で登場した技術キーワード
- ピッチ(製紙ピッチ)
- 木材パルプに含まれる天然の樹脂成分や、古紙に含まれるインク・接着剤などの粘着性物質が、製紙工程の水中で集積・凝集したものの総称です。これらが抄紙機のワイヤーやロールに付着すると、紙にシミ(欠点)を作ったり、紙が途中で切れる「断紙」を引き起こしたりする、製紙現場における主要な汚れトラブルの原因となります。
- 界面活性剤
- 分子内に水になじみやすい「親水基」と、油になじみやすい「親油基」を併せ持つ物質の総称です。本来混ざり合わない水と樹脂(ピッチ)の境界面に働きかけて表面張力を下げ、粘着性のある汚れを微細な粒子として水中に安定して分散(乳化・分散作用)させ、再付着を防ぐ役割を担います。
- HLB(親水親油バランス)
- 界面活性剤の親水性と親油性のバランスを 0 から 20 までの数値で示した指標です。数値が小さいほど親油性が高く(油に溶けやすい)、大きいほど親水性が高く(水に溶けやすい)なります。対象とする汚れの性質や工程の温度条件に合わせて、最適なHLB値を持つ界面活性剤を組み合わせることが、高度な洗浄・分散性能を引き出す鍵となります。
特許情報まとめ
| 発明の名称 | ピッチコントロール剤 |
|---|---|
| 特許番号 | 特許第7583453号 |
| 特許権者 | 株式会社片山化学工業研究所 |
| 発明者 | 川頭 勇太、榎本 幸典 |
| 出願日 | 令和4年9月30日 (2022.09.30) |
| 登録日 | 令和6年11月6日 (2024.11.06) |
| 受賞歴 | 令和7年度 近畿地方発明表彰 中小企業庁長官賞 ※併せて「実施功績賞」を受賞 |
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